音楽バカ
―「希良さん、」
ちょうど下駄箱付近で呼び止めたのは、合唱部の愛美だった。
昇降口を熱い風が吹き抜ける。
「なーに?」
なんだかんだで愛美や沙穂子などの合唱部とは、仲が良かったりする。
「明後日、がんばってね。」
明後日というのは、地域の夏祭りのことである。
夏祭りでは小さなステージが組まれるのだが、希良たち吹奏楽部は毎年そこで演奏している。
数少ない行事の一つのため、準備は昨年度の3学期から進められていた。
「なーに言ってんの?
合唱部もやるんでしょ?」
「まぁ、そうなんだけどね。
希良さんにはお世話になったから…」
愛美はにっこりほほえんだ。
希良も思わず顔が和らぐ。
「合唱部てさ、浴衣着るんでしょ?
さすがに気合い入ってんね。」
「へ?」
「来るんでしょ?先輩。」
重たくならないよう茶化すように言った。
先輩というのは愛美の憧れの人のことだ。
「うん……。」
愛美は俯いた。
少し顔を赤らめているのは暑いからだけではない。
「がんばって!」
希良は愛美の肩をたたいた。
「ありがとう。」
顔を上げた愛美は満面の笑みだった。
…誰かのために音楽をするのも悪くないかな、と希良は思った。