SEASON
陽生があたしのギターに手を触れかけた時、昔の記憶が思い起こされた。

薄暗い部屋で暴れる人が1人――――あたしの唯一のギターに手をかけて――――

動悸が激しく、頭が真っ白になり背中に悪寒も走り、気がつけば陽生の手からギターを奪い取って抱えていた。

ギターを胸の前で抱えるように抱きしめ、恐る恐る顔を上げる。

目の前にいるのはあの人じゃない。

あの人じゃなくて――――陽生がいる。

誰も奪っていったりしない、壊していったりしないと自分に言い聞かせてやっと陽生の顔を見ることができた。

いきなりのあたしの行動に呆然と立ち尽くす陽生。

何か言わないと。

何か……。

気持ちは焦るばかりで口が開かない、声が出ない。

陽生との間に気まずい雰囲気が漂い始めた時風幸が割って入ってきた。

「何があったか知らないが、捺未は他の人にギターを触られたくないんだな?」

いまだに喉が張り付いて声が出ない代わりにコクン、と頷く。

「わかった。千明にも言っとくし俺らも気をつけるから……そんな顔すんな」
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