one.real
車を降りて振り返ると運転席の窓が下降し、明後日は8時に迎え行くからね、と笑顔の椎名さんが顔を出した。
はーい、と返事をした俺に満足そうに頷いた椎名さんは手を振って走り去った。
バーの入り口はテラスの脇にある五段程の階段を下ったとこにある。
昼に来たのはもう二年以上前。この真っ黒い階段が、昼間どんな風に爽やかに化けてたか、もう思い出せない。
黒い階段と黒い扉。それらをクリーム色の壁が飲み込んでいる。
《open》と札がかけられた少し重いその扉を押せば、ギィと音をたてて薄暗い店内が開けた。