私の中の眠れるワタシ

私はまた一つ、新しく、自分の居場所を見つけたような気がした。


今度は、目に見えない、心の『居場所』。
横顔を見つめながら。

−−−先生なら、と思う。


ワタシの中で、普段のコーチの顔から、九歳年上なだけの、お兄さんに変わっていく。

家に着くまでの、ほんの僅かな時間に、学校の中で私だけしか知らない先生を。

間違いなく、見たのだ。


家の前まで着いて、車を降りるとき、私は自分が先生と同じ年齢になっているように錯覚した。

車のドアを閉める私は、二十三歳で、デート帰り。
恋人の車で送ってもらって、今日の夜また電話するね、と約束しあう……。


でも現実は、ただお礼を告げて終わっただけだったが。

車が走り去った後、車の中で流れていた曲が脳裏から離れない。

確かあれは。

鬼束ちひろの、『月光』だった。

その時の気持ちに、状況に、リンクしているように感じて……。

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