君との期待値

「俺がわざわざ言う必要ないか」



ボソッと隣で呟いていた。



聞き返そうと彼の顔を見上げた。



けれど、
彼の顔を見た瞬間口が動かなくなった。



真っ直ぐな視線。



揺らがない瞳でただ海を見つめている。



あまりにも真剣だから、私も言葉を忘れて何があるのかと視線の先を辿る。



でも、
私に見えたのはいつもの変わらなく広がる広い海だけ。



違うものが見えるのかと、彼の顔と海を何度も行ったり来たりして確かめる。



何を……見てるのかな?



それとも何も見ていない?



真剣な瞳の先に映るものを同じように見たいのに。



少しだけ寂しい。



同じ場所にいても見えるものは違うってこのこと言うんだな。



< 175 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop