君との期待値
「俺がわざわざ言う必要ないか」
ボソッと隣で呟いていた。
聞き返そうと彼の顔を見上げた。
けれど、
彼の顔を見た瞬間口が動かなくなった。
真っ直ぐな視線。
揺らがない瞳でただ海を見つめている。
あまりにも真剣だから、私も言葉を忘れて何があるのかと視線の先を辿る。
でも、
私に見えたのはいつもの変わらなく広がる広い海だけ。
違うものが見えるのかと、彼の顔と海を何度も行ったり来たりして確かめる。
何を……見てるのかな?
それとも何も見ていない?
真剣な瞳の先に映るものを同じように見たいのに。
少しだけ寂しい。
同じ場所にいても見えるものは違うってこのこと言うんだな。