俺のココ、あいてるけど。
 
「少し話をさせてくれないか。誤解されたままじゃ、俺───」

「やだ、あたしってドジですね。布巾持ってこなきゃ」

「長澤、少しだけでいいから。聞きたくないかもしれな───」

「あ!その前に椅子直さなきゃ」


困ったような顔であたしを見ていた登坂さんはふいに口を開いた。

けれどあたしは、その台詞を最後まで言わせず強引に切る。

妙に明るい声が出ていたことに、あたし自身びっくりした。


そうしている間にも、こぼしたコーヒーはテーブルの端までゆるゆると流れていって。

引力には逆らえないとばかりに床にポタポタと落ちはじめていた。


「布巾、給湯室のほうですかね。困っちゃいますよね〜、困ったときにないなんて」


話なんて聞きたくない。

そもそも、あたしには登坂さんに弁解してもらう権利もない。


ただの片想いで、あのときは女の人といたところをたまたま見て、驚いて泣いちゃっただけ。

片想いの人だったんだもの。

そうだよ、ただそれだけの人だったんだもの、最初から関係なんてなかったんだ・・・・。
 

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