俺のココ、あいてるけど。
 
どうでもいいことを早口でまくし立てながら、あたしはそんなふうに思っていた。

そう思わないと、この状況に、登坂さんに、何もかもに耐えきれなくなる・・・・その表現のほうが合っているのかもしれない。


あたしは急いで椅子を起して、登坂さんの脇を素早く通って給湯室に向かった。

そうしないと、目的地にはたどり着けないんだ。





でも───・・。





「待って!」


あたしが歩く速度をも、その片手で簡単に止められてしまう。

登坂さんの手が、痛いくらいにあたしの手首をつかんでいた。


「早くしないとコーヒーが・・・・」

「そんなの今はいい」


ますます指の力が強くなる。

怖くて離れたくて、逃ようと振り払いはするけど、登坂さんはそれを許してはくれない。


「でも・・・・」

「いいから!」


今まで一度も声を荒げた場面を見たことがなかった登坂さんが、このとき初めて大きな声を出した。

びくっと体が震える。

それと同時に、もがく力もこそぎ取られてしまう・・・・。
 

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