不思議な家のアリス
「何が?」
「すっぴん。」
なるほど。
またバカにされてるらしい。
私は化粧が凄く苦手で、この年になってもまだ化粧と言う化粧をした事がない。
「すいませんね、モサくて。」
靴を履きながら、ドアを開けといてくれている黒木くんに刺々しく言う。
「…いや、良いんじゃん?変に飾り立てるよか、よっぽど綺麗。」
何処までもマイペースに、黒木くんがしれっと言った。
綺麗って…わ、わ、私が!?
容姿を誉められたことは数える程しかない、私の顔が瞬く間に熱くなる。
綺麗…か。嬉しいかも。
ニヤつく顔を何とか誤魔化しながら玄関を出た所で、彼は「ケバい女は汚く見える。」と続けた。
…あ、なるほど。
綺麗って、私の顔とかじゃなく、清潔って意味ね。
一気に萎えて、家の敷地内をダラダラ歩いていると、ブォンッ…と耳をつんざく様なドでかいバイクのエンジン音。
両手で耳を塞ぎ振り返ると、バイクに股がった黒木くんにヘルメットを投げられて、慌てて受け取った。
「何!?υ」
驚いて私が聞くと、彼はクイッと顎を後部座席に向けている。
「乗れって事ー!?」
エンジン音にかき消されてしまわない様に声を張り上げる。
コクン、と彼は小さく頷いた。