不思議な家のアリス
皆同じ痛みを抱えているから、この家は暖かいのかも知れない。
皆同じ傷を癒しながら生きているからこそ、この家は優しいのかも知れない。
誰もパパの話題に故意に触れてくるわけでもなく、故意に避けているわけでもない。
学校の皆は、故意にパパの話題に触れるか、故意に避けているか。そのどっちかで。
私を取り巻く空気は物凄く不自然だった。
彼らの目には、同情の色も、好奇の色も、哀れみの色も無いから、
この家だけが自然だから、なんだかんだ言って居心地が良いのかも知れない。
「ほら、そろそろ泣き止め。三分経つぞ。」
コチョコチョ、とわき腹をくすぐってきた。
「だはっ!やめて!くすぐったいくすぐったい!泣き止むから―」
私が笑うと、秋夜もニカッと笑った。
「よしっ!んじゃあ早く飯作れ。腹減ったから急げよ?」
―ずびっ
鼻水をすすり、涙を手で拭った。
「秋夜、ありがと。」
「おー。その代わり、俺の好きなモン作れよ。」
「何が良いの?」
「当ててみ。ハズレたらお仕置き~」
「当たるわけ無いじゃん!」
「良いからつべこべ言わず作れよ。材料買ってきといたから、それ見りゃ分かるだろ。」
「何買ったの?」
「下行きゃ分かる。」
居間へ向かう彼はもうすっかりいつものぶっきらぼうな秋夜で。
いつもは私の失敗や醜態をチクチクネチネチ言ってくるのに、こういう時は言ってこない。
ちゃんとわきまえてるんだ。
不良な彼らの方が、よっぽど人に優しい気がした。
少なくとも、今の私には。