不思議な家のアリス
あの派手な秋夜の妹…。
床を擦るほどの長いスカートを履いて、真っ赤な口紅を塗るスケバンを想像していると、勇志くんが「"居た"の。」とまた薄く笑った。
"居た"って…。
なんで過去形なの?
「一緒に住んでたんだ、一年前まで、俺らと。
光…秋夜の妹が大好物だったのが、アイツが作るウ●コみてーなまっずいカレー。
アイツが唐突にバーベキューしたいなんて言う時は、昔を思い出して寂しくなって、紛らわす為に賑やかに騒ぎたい時なんだよ。
だから、今日はあのワガママ小僧に付き合ってやってくれよ。」
…そうだったんだ…。
それを分かってたから勇志くんも、文句一つ言わずにここへ来たんだ。
―言葉には出さないけど、多分秋夜の妹さんは…もうこの世には居ない。
きっと秋夜は妹を物凄く可愛がって、両親に代わって妹に世話をやいて、時には怒ったり、泣かせてあげたりしていたのかも知れない。
だからあんなに、人が溜め込んだものを吐き出させるのが上手かったんだ―。
だからあんなにあやすのが上手かったんだ―。
秋夜の底の無い悲しみを、少し分かった気がした。