今日の・・・
 通されたリビングダイニングはきれいに片付けられていた。対面式キッチンで、カウンターに食卓が横付けされている。リビング側にはベージュのソファがあり、私たちは並んでそこに座った。奥に続く4畳半の和室の隅には子供のおもちゃが積まれている。リビングに置かれた32インチほどのテレビはつけっぱなしになっていた。
リビングには大きな窓があり、光が入ってきているのに、やっぱり何か、暗い。
「ごめんなさいね、初めて会うのに、おかしなこと頼んでしまって・・・」
恵子さんはコーヒーを運びながらそう言った。
「いえ、大丈夫です」
「あ、ごめんなさい、一旦テレビは消しますね・・・。音がないと怖くて・・・」
恵子さんは弱く微笑んでリモコンに手をかけた。
「で、どう?あっちゃん・・・」
千秋ちゃんはいきなり切り出した。
「うん、まだ・・・。先にちょっと話を聞かせてもらったほうが早いかな」
恵子さんは一人がけのソファに腰掛け、翔君をひざに乗せると神妙な面持ちで話し始めた。
「丁度半年ほど前にこの家に引っ越してきたんですけど、主人の転勤で・・・。もともと東京の出身で、大阪へは2年の約束でね。それで、5月の連休にここに入ったんです。会社からの紹介で。社宅ではないんですけど、会社が借り上げているようです。でも、引っ越して半月ほどしてからおかしなことばっかりで・・・」
恵子さんは大きくため息をついた。私は、さっきから暑くて仕方なかった。11月だと言うのに・・・。
「最初は、小さな物音とか、天井のきしみとか、そんな些細なことでたいして気にも留めてなかったんですけど、どうも、誰かいるみたいな気がしてきて。昼間は私と翔と二人きりで、勿論他には誰もいないし・・・。気味が悪いから出来るだけ日中は公園に出かけたり、買い物に行ったりして家にいないようにしてたんです。千秋さんとも公園で仲良くなったんですけどね」
恵子さんは千秋ちゃんに微笑みかけた。千秋ちゃんもうなずいた。
「でも、翔もまだまだお昼寝が欠かせない年頃だし、昼から夕方はどうしても家にいることになってしまうんです・・・」
恵子さんは顔を曇らせ言った。
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