今日の・・・

　いつものように周りの音が、頭の中に見えている光景の音とシンクロするように入れ替わっていく。見えてきたのは、口論している男女。正確には女の方が一方的に怒っている感じだ。男はそれをまぁまぁ、と言う感じでなだめている。部屋の隅っこで小さな女の子がおとなしくお絵かきをしている。・・・ベッドで横たわっていた男の在りし日の家族のようだ。
「・・・・お母さん、お母さん・・・」
子供の声が聞こえ、最初はその女の子だと思ったが、それが翔君の声だと気付いて、私は現実に戻った。そして目を開けて立ち上がり、恵子さんにこう聞いた。
「ここで、寝ている間に怖い思いしてますよね？」
「あ、はい・・・。一度、夜中に見ちゃって・・・」
「ここで、亡くなってるんですよ、男の人」
「え？！」
「とりあえず下へ戻りましょうか」
私たちはその場を離れ、元のリビングに戻った。

「で、なんやったの？」
千秋ちゃんが言った。
「何年くらい前だろう、この家に住んでいた人です。普通にお父さんと、お母さんと女の子が一人、丁度翔君くらいの。で、ちょっと言いにくいんですけど、お父さんが、自殺してるんです、この家の、丁度寝室で」
恵子さんは息を呑み、眉をこれでもかと言うくらいひそめた。
「相当、気の弱い人だったようで、とにかく仕事が長続きしない。転職の繰り返しで、夫婦仲はどんどん悪くなるしで、ついに奥さんと娘さんは出て行ってしまったようです」
「じゃぁ、亡くなったのは・・・・？」
「旦那一人ですね。睡眠薬自殺のようです」
「どうしたらいいですか・・・？」
恵子さんは搾り出すような声で言った。
「お母さん、大丈夫？おうちにお化けがいるの？」
恵子さんの膝の上に座っていた翔君が突然口を開いた。