今日の・・・
 夕方、6時。大学を出てから不安そうな顔をした夕実と別れ、結局昼からずっと一緒にいた亜美が心理学のノートを見せて欲しいと言って部屋に来ていた。本当は一人でいるべきだったのかも知れないが、珍しく気分的に落ち着かなかったのと、亜美が部屋に来るのを断る理由もこれと言って思いつかなかったのだった。果たして本当に夕実を一人で行かせて良かったのか、まだ悶々とするものがあった。ちなみに亜美は私の力のことを知らない。
 
 「あっちゃん、ちょっと大丈夫?」
二人でレトルトカレーをつついていたが、私の手が止まっているのを見て、亜美が声をかけてきた。
「あ?うん、大丈夫やで」
「今頃、夕実はおいしいもの、食べてるのかな、谷君と。こっちはレトルトカレーなのにね」
「そうやね・・・」
「心配そうやね、随分」
「まぁね。私が言うのもなんなんだけど、全然すれてないやん、夕実って」
「そんなん、わからんでぇ。だって、もう21歳やん。何を知っててもおかしくないやろぉ?」
亜美がいたずらっぽく笑って言った。
「そんな・・・」
驚く私を無視して亜美は話を続けた。
「あっちゃんもさ、早く彼氏作ったら?もったいないやん。折角美人なのに。その高そ~な壁をとっとと取っ払ってね」
「壁?」
「なんて言うかさ、ちょっと冷めたところがあるっていうか、若さが無いって言うか。見た目と喋りの差がむちゃくちゃやん。ま、私はあっちゃんと喋るの楽しいけどね、安心感あるし。多分夕実もそうなんだろうけど」
「よく言われる」
「でも、男にはねぇ。やっぱりこう、何て言うか、抜けてる部分を見せないと。夕実はその点、あっちゃんと違うとこやね。天然だし、得」
「なんだかなぁ・・・」
語る亜美に私は困った顔をした。そんなとこ改めて言われなくてもわかってるし。でも、こんなときに不謹慎だけど、こんな会話が、こんな何てこと無い普通の会話がピリピリしている私の気分を和らげるのも事実。 
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