切なさに似て…
そんなに怒られてばかりいたら、そりゃ隠したくもなるよ。パチンコ行って息抜きしたくなるよ。ゲームの間が1人の時間って考えちゃうって…。

結構、我慢してるんじゃないかな…。

そう思ったのも束の間。


「顔も見たくないよ。でも、これからはそうはいかないから我慢してるんだけどさ」

と、さっちゃんは私の胸の内とは真逆な言葉を平然と口にした。


「そうだね…」

肩を落とし溜め息混じりに呟いた。

「柚ちゃんは彼氏作らないの?」

そう聞いて来たのは、彼女がチョコイチゴパイにフォークを刺した時。


…ほら来たっ。

いつものパターン、またか…。


私の目の前に置かれたカカオの匂いを放つ、温かいフォンダンショコラ。

食すタイミングを見失い、上に乗っかったバニラのアイスクリームがトロリと溶けて行く。


「…別にいらないし」

そう答えた私は、強がりでも何でもなかった。


「えー。でも、いた方が楽しいのに」

「興味ないんだよね。楽しいなんて思わないし。それより荷造りはどうなってんの?」

話しを違う方に向けた。



「うん、あんまり進まないさ。だけど、もうすぐ引っ越しだから早く片付けなきゃいけないのに、全然片付かなくてさ。でも、ウチの彼氏頼りなくてちっとも進まないの。
困ってんだよねー、うちの親も心配してさ。あんた片付いたのかいとかって電話来るし。
あ~っ早く引っ越したいな。でも、もうほんと、ようやく2人暮らしだよー。嬉しくてさー」

先程まで“ムカつく”と怒りを露わにしていた口を、嬉しそうに緩ませる。


どっちなんだ。と聞きたいところだけれど。

私はそれを見て、上手く話しを逸らせてホッとしている。
< 10 / 388 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop