切なさに似て…
高校生の時の歴代の彼氏より、大人の包容力、雰囲気をさらけ出すチーフに。

私が本気になってもおかしくはなかった。


小さな頃からひたむきに、大人になりたいと願い、憧れていた私の心を奪って行くには充分過ぎるほど。

描き続けた理想の“大人”を兼ね備えていた。


誠実で、朗らかで、正直で、真っ直ぐで…。

温かく、優しくて…。

耳の奥を擽る生暖かい吐息。

『ずっとこうしたかった…』

愛しそうに、淋しそうで、不満そうな、そんな口調で。


私の髪に指を絡めながら頭を押さえ付ける。

ふわっとスカルプの香りが鼻を突く。


『柚…、愛してる』

『ノブヒロ…っ』


皮肉にも…、[伸宏]と言う名前の男に、私は本気になった。


でも、『柚果』とは呼ばせなかったのは。

信浩と重ね合わせていたからなのか。

その逆で、重ね合わせて見たくなかったからなのか。


みんながみんな、呼びにくいと『柚』と省略する中で。

『柚果』と正式に呼ぶのが、信浩しかいないからなのか。
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