切なさに似て…
「本社に行って来ますから。後はお願いね。くれぐれも私語は慎むように」

そう言い残すと澤田さんは書類封筒を手に、事務所を出て行った。


学校集会でくっちゃべっている生徒を、叱るみたいなことを言われても日頃の行動を見ていれば仕方のないことだ。


「…それで、さっきの話し!!教えて下さいよー。教えてくれるまで仕事しませんよー」

白崎さんは椅子をクルッと回転させ、私に向いた好奇の目はキラキラと輝やいていた。


本気で仕事しない気ではないだろうけど。

お局様がいなくなった途端、そう来るだろうなと思っていた私は、肩を落とし息を吐いた。


周りを見回しても、私たち以外は誰もいない。

所長は休憩所で、朝の連続ドラマに夢中だし、他の社員は倉庫にいる。


壁にかけられた時計の長針は10時を差していて、澤田さんが本社から戻るのは昼過ぎだと踏んで、覚悟を決めた口がゆっくりと開ける。

社内で口に出して話すのは初めてのこと。辺りをキョロキョロと目を光らせながら、私は静かに言葉を紡いでいった。
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