切なさに似て…
*****

3年前。

会社の男性社員と女性社員の、禁断の恋仲だったってことは、会社内の誰一人として知らなかった事実。

その男性社員は、結婚していて奥さんがいた。

私がそれを知ったのは、その奥さんが会社に乗り込みに来たからだ。


『所長に会わせてちょうだいっ!!』

カウンターの台を叩きつけ、もの凄い剣幕で怒鳴られた私は、クレームか何かだと思い、急いで所長を呼びに行った。

応接室に通された女の人の喚き声は、薄い壁越しから事務所までよく通って聞こえた。


『うちの人をたぶらかした女性社員を出しなさい!!この会社の教育が悪いから、こういうことになるのよ!一体どうなってるのかしらっ!こんな、人の旦那を寝取るような女っ!!即刻クビにしてちょうだいよっ!!』


当事者の2人も加わり、奥さんは1時間くらい怒鳴り続けていただろうか。

何事だと勢揃いした他の社員共々、事務所内にもその緊迫した空気が流れる。


『…帰ってこないのよ、毎日毎日。残業やら会社に泊まりだなんて、見え透いた嘘つくくらい、その女にのめり込んでる証拠でしょうが!』

応接室からは、奥さん以外の人物の声は聞こえることはなかった。
< 147 / 388 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop