切なさに似て…
応接室から出て来た奥さんの沈痛した表情は酷く悲しげで、口許を震わせ、頬には一筋の涙。

整った顔立ちには不釣り合いと言っていいほど、その表情は似合わっていなかった。


そのすぐあと、奥さんは本社にまで乗り込んで行き、女性社員の解雇を懇願したらしい。

穏やかな週末を迎えるはずだった金曜日の午後に、騒然とする会社内。


想像を超えるくらいに膨れ上がり、会社までを巻き込む次第となった。

当人同士の痴情の問題なのに、巻き込まれた会社も、上のお偉方も、どう対処していいかあたふたするばかり。

はっきり言って、会社は介入していない、関係ないと言えばそれまでだし、2人を会わせたのは紛れもなく会社だと主張する奥さん。


難しい話しだ。

何が悪いって、2人が悪い。

会社ではないはずだ。


会社側は改善案が見出だすことが出来ないまま、その2人の痴情問題は呆気ない終わりを遂げた。


その日の夜遅く、峠を走る男性社員が運転する車が、ガードレールを突き抜けるという、事故を起こした。

助手席に、女性社員を乗せて。


私がそれを知ったのは、土曜日の朝のニュース番組だった。


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