切なさに似て…
「その事件っていうか、出来事があったから。澤田さんが赴任して来て、社内恋愛禁止になったんだよね」

話し終えた私に訪れた、罪悪感と脱力感。


わなわなと声が震えそうになっていたことは、どうか気づかれていませんように…。


電卓を叩く指が震えて、たかだが7桁と6桁の足し算で、はじき出された数字は滅茶苦茶だった。

汗でしっとりしているのは手の平だけじゃない。体中じっとり染みる汗、背筋に冷たい何かがじくじく這う感覚。

悪いことをしたみたいな、犯罪者の気分。


「その男もうまくやれば良かったのに。そのヒス奥さんにも、寝取られる原因はあったってことですよねー?会社まで乗り込んでくるとか、ありえなーい。
あたし、相手が結婚してるとか、浮気とか不倫はありえないですけどー。恋愛は自由ですよー。会社もバカみたいですねー」

と、白崎さんが発した言葉に、私は何も言えなかった。


「そんなことがあったんだー。その奥さんはその後どうしたんですかー?」

「…さぁ?」

なんて首を傾げ、その後のことは知らない。と惚けて見せた。
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