切なさに似て…
「社内恋愛禁止って、独身同士なら構わないですよねー?もし、それでもダメだって言うなら、あたし会社辞めますよー」

彼女は不満そうに唇を突き出した。

その様は、本当に辞めかねないから、結城さんのことを本気で好きなんだろうと思った。

「辞められたら私が困るよ…」

それは嘘じゃなかった。


3月で年度末。陸上選手が目の前を走り抜けていくように、日々、業務が慌ただしい。

お喋りが過ぎることはある、口調も不真面目に聞こえてしまう。けれど、白崎さんがいなくなったら、と考えると。

彼女の存在はありがたいのだ。嘘、偽りじゃなくて。


私はそんな白崎さんに、あの3年前の事実を脚色して聞かせた。

全てを語らなかった。

いや、語れなかった…。


思い出すと、胸が締め付けられて息苦しくなる。

きちんと呼吸が出来ているのかわからなくなる。


お願いだから、これ以上は聞かないで…。


湧き出た汗は冷たさを増し、まるで水の中に沈められたかのような、神経という神経に寒気が駆け抜けていく。
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