切なさに似て…
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『昨夜未明、古林峠で乗用車がガードレールに衝突するといった事故がありました。
運転手の佐竹伸宏さんと助手席に乗り合わせていた野木桂子さんの2名は、駆け付けた救急隊員によって死亡が確認されました。

現場は、片側一車線の緩やかな下り坂。事故当時、路面はブラックアイスバーンで、雪は降っておらず、現場にブレーキ痕がなかったことから、警察はスリップが原因と見て捜査しています。
次のニュースです…』


淡々とニュースを読みあげる女のキャスターの、無情な声がテレビのスピーカーを通して聞こえる。


手に持っていたコーヒーカップから、コーヒーが零れたのが見えた。

ただ、ほんの少しだったのか、それとも中身全部が零れたかは定かではなかった。


頭の中が真っ白になった。

『柚果?…どうした?おーい、柚果…?』

私の顔を覗き込む信浩に、なんて答えたかも覚えていない。


なんの感情も感じられないキャスターの、エコーがかった声だけが、耳の奥で何度も何度も繰り返されていた。



昨夜未明…。

運転手の佐竹伸宏さんと助手席に乗り合わせていた野木桂子さんの2名…。

死亡が確認されました…。

路面は圧雪アイスバーンで…。

ブレーキ痕がなかったことから…。



―運転手の佐竹、伸宏さん…。


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