切なさに似て…
会社からの帰路、いくつも敷き詰めた建物の間から赤茶色した壁が見えて来た。


昨日までは、電話で断りを入れてから訪ねていた信浩のマンション。

今日からはその必要もないんだと思ったら、なんだか急に寂しくなった。


『はぁーい、信浩ー?』

『どちら様ー?』

って、私の電話の第一声に、白々しく受け答えしてくるのが楽しみだった。


鍵を受け取っただけのことなのに、一線を越えてしまったかのような感覚。

意味もなく、胸の果てで何かが暴れ回っていて、無性に気持ちが焦る。


たかが、こんな安っぽい鍵一つでどうかしてるんじゃないかって、自分でも思うけれど。

理由は、この部屋の鍵だからこんな衝動が纏わり付くんだ。


意味もなくインターホンのようなブザーを鳴らす。部屋の奥で、小さくビーッと間抜けな音が返ってくる。

鍵穴に差し込んだ安価なマスターキーは、ガチャッと金属を擦り合わせた音を立てた。


あっ…、開いた。

ちゃちな作りなくせに…。
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