切なさに似て…
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幼い頃からの念願が叶い、スタートした一人暮らし。

ようやく、手に入れた自由の生活。


毎週土曜日の仕事帰りは、スーパーに立ち寄り食料の買い出しをする。

前日に何を作ろうか、悩みながら紙に書き出した食材をカゴに入れていく時、早く帰らなきゃと心が弾んだ。


帰って来た部屋に明るさが取り戻し、散らかったテーブルを片付ける。

ベッド周りも整え、シャワーを素早く浴びたあと、2人分の夕飯を用意する。


部屋に鼻唄混じりのハーモニーなんて響かせて、部屋のチャイムが鳴るのを今か今かと待ち侘びて。

これが“幸せ”っていうんだ、なんて噛み締めてみたりした。


ピンポーン、ピンポーン。2回連続で鳴るインターホンは、伸宏が来た証拠。


ドアの向こうに立つ伸宏は毎週仕事を終えた土曜日の晩。私に会いにそして、…愛を届けに来た。


そこにも“愛”なんて最初からなかった。

奥さんがいたと知った。

他に女がいたと知った。

金曜日の午後。


前週の土曜日には、2週間先に待ち構えていたクリスマス。

“クリスマスは一緒に過ごそう”

“愛してる”


そう私に言ったその口で、他の人にも同じことを語りかけていたんだ。

それどころか、結婚していた事実を見事なまで隠し通していたことに感心した。

じわりじわりと、現実に引き戻されていく気持ちについていけないでいた。
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