切なさに似て…
何が嘘で、何が真実だったのか今となっては、形のない蜃気楼の向こう側に隠されてしまった。


全てが理解できた時には、完全に惑わされた心の動きを封じられた。


痛撃を受けた心は、意外にも傷みはなかった。


ひたすら、頭の中の映像は真っ白で、その前後の記憶が曖昧だった。

何をしたか、何を言ったか。まるで覚えていない。


全てが嘘だったと、真実を受け入れたくなかっただけなのかも知れない。


朝のニュースで流れた事故報告の話題は、土曜日の会社内で繰り広げられた。

日常の他愛もない会話に飽きていたさなかに、突然舞い込んだ話題提供。

あれこれと適当に思い込み、詮索してみたりと、業務が暇だったこともあり打ってつけだった。


延々と耳のずっと奥でこだまするニュースキャスターの声は、両手で耳を塞いでも一向に鳴り止まない。

オーディオプレイヤーで、そればかりリピート再生されているみたいに、しつこく流れる。


『事故当時、路面はブラックアイスバーンで、雪は降っておらず、現場にブレーキ痕がなかったことから、警察はスリップが原因と見て捜査しています』



違うっ…!!

スリップが原因なんかじゃない。

違う…。


彼は…。

故意にブレーキを踏まなかったんだ。


スリップなんかじゃない。

事故なんかじゃない。


故意に…、スピードを緩めなかったんだ。



…だって、金曜日。

仕事が終わった後、彼は私に言った。


『結婚していたこと隠しててごめん。俺は彼女を愛している。だから…』
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