切なさに似て…
何も言い返せないでいる私を、本当に何でも見透かされているかのように。

『…部屋、解約しろよ』

そう静かに言い放ち、鍵束をジャラジャラ鳴らし鍵を一つ抜き取ると。


『持ってろ』

と、私の手の中へ落とした。


何度となく見てきた信浩の部屋の鍵。

私はその安っぽい鍵と、信浩の横顔を交互に目線を動かした。


何処か一点を見つめる信浩が吐き出した、タバコの煙はゆらゆらと決して広くはない車内を泳ぎ回る。


持ってろと言ったきり口を閉ざした瞳の向こう側で、何を考えているのか。

ぼんやりと何も見えない真っ黒な外を眺めながら、僅かに開けたウインドウの隙間へと、煙を吐き出した。


『…いい。いらない』

そう断って、鍵を信浩の膝の上に置き、ドアレバーに手をかけた。


『せっかく来たんだから…、海…、見てくる』

ドアを開けた瞬間、吹きさらす風と雪で息継ぎが失われる。


真っ暗で見えるわけないのに、海見てくるだなんて。

わざとがましい…。

きっと、そんな見え透いた私の態度も、見抜かれているんだ。
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