切なさに似て…
信浩には色んなこと何でも話して来たけど、これだけはまだ言えないよ。

だから、誰にも何も言えない。


誰かに聞けば答えが見つかるなら、とっくに聞いてる。


誰かに全てを話したいのに。

誰かに聞いて貰いたいのに…。

全部洗いざらい話したいのに。


だからって、誰が聞いてくれるの?

誰に話せば、楽になれるの?

誰がわかってくれるの?



高校時代の仲が良かった友達?

会社の同僚?

後輩の白崎さんに、伸宏の代わりに赴任して来た一弥?

幸せ絶頂のさっちゃん?

ボロアパートにいるあのオバサン?


…周りを見渡したって、誰もいない。


海鳴りの轟音は、絶叫のように重たく響く。


その場にしゃがみ込み、強風に持っていかれる髪を左手で押さえる。

空いた右手で掬った砂は湿り気を含んでいるにも構わず、指の間をすり抜けて行く。


あんなに大人になりたいと強く願っていたのに、大人になっても何も掴み取れていない。まるで私みたいだ。


これくらい、何でもない。

これくらい、対したことない。

これくらい、平気。


呪文のように唱え続けた言葉を呟くと、風と海の悲し気に震える叫び声に掻き消された。
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