切なさに似て…
ぼやけた焦点の話を、頭の中で組み合わせてみる。

どう考えてみても、やっぱりおかしな点はない。


「…それが、どうかした?」

私は軽く一息つくと、意を決して口に出した。


「別に。ただ…」

何かを言いかける信浩は、ちらっと横目で私を見る。


するといきなり、ベッドの縁につけていた私の右手を掴んで、体ごとベッドから引きずり落とされた。


不意に引きずり落とされ、膝に走った痛み。

何事が起きたのかと、ゆっくりと瞳を開ける。


「痛っ」

そう心の中で呟き、声に出せなかったのは。


耳元から聞こえてくる信浩の静かな吐息と。

視界の隅に映し出されたチョコレートブラウンの、サラっとした信浩の前髪が私の頬に刺さってて。

私の背中を包み込む温もり。

私の体は信浩の膝の間で。


確認しなくても、信浩に抱き込まれているのは理解できる。


ただ、その理由だけが不明確なだけだった。


突然のことに、私の思考はプツリと遮断された。



「…信、浩?」

ようやく言葉にした台詞は、意識し過ぎて掠れてしまう。


すると、背中に回された信浩の腕に力が加わり、体がぎゅーっと締め付けられた。
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