切なさに似て…
この異様な態勢といい、きつく締められた体といい、耳の奥まで届く信浩の呼吸する鼻息といい。

ふんわりと匂う紅茶のような香りは、信浩愛用のヴィヴィアンの香水。


置かれた状況に頭の中がこんがらがる。


押さえつけられた腕は痛みを感じ、身じろぎを許してはくれない。

自然と速くなる心音。


呼吸をすることすら忘れてしまいそうになる。

抵抗すればいいのかどうかすら考えられない。


ゴクッと生唾を飲み込み、目を固く暝って、ゆっくりと時間だけが過ぎていくのをひたすら待つ。


どちらとも口を噤み。

信浩は、ただ私の体を締め付けるだけ。

私は、ただ封じられた身動きに従うだけ。


静かな長い沈黙に、緊迫した空気に。

私はどれだけ耐えられるのだろうか。


先に静寂を破ったのは信浩だった。

耳たぶに熱いものを感じ、生暖かい息が吹きかかる。


「…何で…、他の男なんだよ…」

と、囁かれた言葉はとても小さく、こもって聞こえた。
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