切なさに似て…
手探りで部屋の真ん中に垂れ下がる紐を引っ張り、明かりが照らされた狭い部屋の中。


何かが忽然と変貌していた。

それが何かは、部屋を一周見渡せばすぐにわかる。

朝にはあったはずの信浩の物が消えていた。


テレビボードに適当にレイアウトされた、テレビにデッキはそのままなのに。

爪切りだとか、ハサミだとか。大した物が入っていないガラクタ入れがない。

愛用の枕に香水、携帯の充電器。干しっぱなしの洗濯物がない。

クローゼットからねこそぎ消えた信浩の衣服。

玄関に無造作に置かれていた靴に、洗面台からは歯ブラシや洗面道具一式が取り払われていた。

洗っておいた信浩のコーヒーカップは、私のコーヒーカップと一緒に水切りの中で並んでいたはずなのに。それすらなかった。


ストーブの前に座り込み、微動だにしないでいるのは。

この部屋を出て来た時と、帰って来た時とでは、情景のあまりの変化についていけなかったから。
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