切なさに似て…
ここは飽くまでも“他人”のテリトリー。

自分の帰るべき家があると言うのに、この部屋には幾つか私の私物が持ち込まれていた。


お風呂セットに洗面用品、着替え3日分とメイク道具。

どれも日常の必需品ばかり。不必要な物は持ち込まない。


例えば何かあって、この奇妙な関係に亀裂が生じたと時のことを考え、捨てられても惜しくないものがストックしてあった。

こうして、私は週の半分以上、信浩のテリトリーに入り込むけれど。

突然押しかけたりしない。


ここに来たかったら、必ず一報を入れ伝える。

そう、今日みたいに深夜に近い時間帯だろうと、信浩は電話に出てくれて私を招き入れる。

私が何かやらかさない限り、暗黙のルールが成り立つ仕組み。


さっぱりした体を丁寧にタオルで拭い切り、数十分前に信浩のスウェットを笑った私は、同じようにグレーのスウェットを身に纏う。

信浩のところで使われている、柔軟剤のフローラルの香りが鼻をついた。


シャワールー厶から出ると信浩がビール缶片手に、隅に追いやられていた薄っぺらい布団を狭い床に敷いているところだった。

「私、今日はこっちで寝るよ」

「あ?いいよ、柚果がベッドで」

「いーや。昨日ベッドだったから、今日はこっちでいいよ」

「そ?んじゃ、俺ベッドね」

敷き終えた信浩は腰を下ろし、一つしかない座椅子に背中を付けた。
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