切なさに似て…
「柚果、お前また鞄の中にお菓子突っ込んでただろ、さっき踏んじゃったぞ」

「えーっ!どうしていっつも人の鞄踏むわけ?63円返してよ」

「ちゃっかり消費税までせびるなよ。わかったって、今度買ってきてやるよ」

普段からお菓子は食べない私が、たまに思い出しては食べているのを見てきた信浩は、そう言って鞄を寄こした。


踏まれたらしい鞄に入っていたお菓子は、ストロベリー味のサクサクしたウエハース。運悪く踏まれたそれはパッケージの中で粉々になっていて、捨ててしまうには惜しい。


私は窓際へと駆け寄り、カーテンを引いて内窓の曇り硝子を開ける。

鏡代わりに窓硝子に自分の姿を映し、ドライヤーで髪を軽く乾かした。


あんなに降っていた雪はすっかりやんでいる。

日付が変わったからか、窓から見えるメイン通りの行き交う車はタクシーばかりで交通量は明らかに少なかった。


「あーあ、もう3月終わるのかぁ。早いなぁ…。20歳過ぎたらあっという間って聞くけど、ほーんとその通りだよね?」

反射して映し出された信浩は、空いたグラスにカシスシロップとオレンジを注ぎ、硝子製の細いマドラーで掻き混ぜながら私の背中を見つめていた。


単に思ったことを口にした私は窓とカーテンを閉め、敷かれた平べったい布団に座り込む。


「…って、まだ21じゃん。ほら…」

カシスの赤黒さとオレンジの橙が合わさった、微妙な色をしたグラスを手渡す。
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