切なさに似て…
蛍光灯から下げられた長い革紐を手繰り寄せる信浩の行動を止めに入る。


「あーっ!待ってよ、宿代納めてない」

鞄の奥に隠れている財布から500円玉1枚を抜き取り、テレビ横の貯金箱に入れる。中で硬貨が重たく落ちた。


「消すぞ?」

「はぁーい」

私の返事と共にパッと暗くなった室内、慌てて薄っぺらい布団に背中をつけた。

首までしっかりと、こたった掛け布団を覆い被す。



『別に金はいらねーよ』と受け取りを拒否されたのに、私が用意した無駄にでかい貯金箱。1日500円の宿代を勝手に納めていた。

もちろん使われることなく、貯金箱には約3年分の宿代がずっしり積み重ねられている。

多分、この古めかしいマンションからとっくに引っ越せるくらいの金額にはなっているはず。


それについて信浩は一言も触れない。怒りもしないし、ありがとうを言う訳でもない。


そもそも、私達の間で『ありがとう』と『ごめんなさい』はタブーだった。

言葉にしなくともわかっているつもりなのかも知れない。
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