切なさに似て…
次に目を開けると辺りが明るくて、呆気なく朝を迎えた。

寝足りないと訴える瞼をこじ開け、コーヒーメーカーに手を伸ばす。

ベッドへ視線を送ると、モゾっと寝ていたレナが寝返りを打つ。


「あんなせわしい夜は久しぶりだったな…」

あまりにせわしなさ過ぎて、事の半分も覚えちゃいない。


コポコポと水を吸い上げるコーヒーメーカーから、濃いコーヒーが時間をかけておとされる。

その間、顔を洗い完全に眠気を吹き飛ばし、手早く身なりを調えた私をベッドに正座していたレナが口を開く。


「…家にはもう、…帰らない」

コーヒーカップにいれたてのコーヒーを注ぐ。ガチャッと、硝子の音に紛れたレナの声。

「わかった」

口をつけたカップをテーブルに置き、レナの顔に視線を預ける。


「普通のバイト見つけて、スーパーでもファーストフード店でもいいからさ。それで毎日、250円この貯金箱に入れてよ」

それだけでいいから。そう言って、コーヒーを喉へと流し込んだ。


不思議そうに頭を傾けたレナは、頷いて見せた。


「あと、鍵は一個しかないから、あんた今日は外出禁止ね」

声を出さずに首を縦に振ったレナに、更に一言付け足した。

「それと、帰りは8時過ぎるから」

私は玄関へと足を進め、その後レナが頷いたかどうかはわからなかったが、きっと大きく頭を振ったであろう。


鉄扉が閉まり、鍵穴にキーを差し込み鍵をかけた。
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