切なさに似て…
仕事を終わらせ外へ出ると、宣告通り麻矢が待ち受けていて、頼んだ約束の物を購入してくれていた。

どうやらお金は十分に足りたようで、お釣りを手渡された。

麻矢の車が向かった場所は、私が今一番行きたくないと、体全身が拒絶するボロアパート。


この決着がついたら今度こそ、2度とは戻らない。これが最後だ…。


「治にも来て貰えば良かったかね…」

と、眉間に皺を寄せ不安げに麻矢が呟く。


「大丈夫だよ。荷物は少ないだろうし。…付き合わせて、ごめん」

心配そうな表情の麻矢を残し、アパートの2階を盗み見る。カーテンからは明かりが漏れていて、誰かがいるという事実を私に伝えていた。


鉄階段を上るとカンカンと靴音が、閑静な住宅地に響き渡る。寄り付かなくなってから、いやそれ以前から。この階段の音は好きになれなかった。

カンカンというヒールの音に、いつあの人が帰って来るかと思えば、ビクビクと恐怖心しか芽生えなかった。
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