切なさに似て…
期待していた新しい人員の採用は見送られた。ばかりではなく、口を動かした澤田さんから予想もしていなかった言葉が飛んで来た。

「私は今週いっぱいで本社へ戻りますから。もう私が指導しなくとも、ここの営業所は安心でしょう」

「…えっ?」

驚いた私の、口だけではなく眉も瞳を大きく開いただろう。そのくらい澤田さんの台詞には半信半疑で、頭の中は困惑している。


「何処から聞き付けて来たのか、私がここへ来るのが今週で最後ならって、結城くんが真相を話しに来てくれたのよ。
社内恋愛禁止と掲げなければ、白崎さんは辞めなかったのかも知れないわね。まあ、あの子のことだから、遅かれ早かれ辞めていたかもしれないわね」

澤田さんの目線の先には、天井ギリギリに掲げられた[社内恋愛禁止]の文字。


私はそれを見上げる度に、切ない過去を思い呼び戻していた。

「あの時は、…様々な事が渦巻いてました。それぞれの想いが交差して、行き交ってました。…たった数日の間に」

ぽつぽつと、呟くように寂しく言葉にしていく。
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