切なさに似て…
目を凝らし上を向いた瞳はきつく、まるで睨み据えている様子の澤田さんの口がゆっくりと動いた。

「…そうね、あんな思いは2度もいらないわ。…私も、昔の話だけれど、あんなような体験をしたことがあるのよ。
結婚を約束した人には妻子がいてね。もちろん、結婚どころか実を結ぶことなく、関係が奥さんにバレて終わったの。
男を見る目がなかったのかしらね…。それから、恋愛は無縁なのよ、だから、こんな馬鹿馬鹿しい決まり作ってしまったの」

「そんなことがあったんですか…」

声を曇らせたのは、自分と重ねてしまったからか、思い戻された3年前の過去と澤田さんの過去は、類似していて不謹慎にもとても親近感が湧いたのだ。


「…もう、大丈夫でしょうから、これは剥がしましょう」

その明るい声は無理に作られているように聞こえた。


おもむろに歩き出した澤田さんは、[社内恋愛禁止]の真下で近くにあったパイプ椅子を引っ張り出し、パンプスを脱ぎ始める。


「あっ、私やりますよ…っ」

慌てて傍へ駆け寄った私は、澤田さんの一言で静止させられた。
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