切なさに似て…
「いいわ、貼った人が剥がすのが責任でしょう」

もっともらしいことを述べ、椅子をずらしながら一枚一枚丁寧に剥がしていく。


6枚に分けられた紙が剥がされ、綺麗な壁がうっすらと現れ回りの汚れた跡が浮かび上がる。


「代わりに何か貼りましょうか?」

「そうね、元に戻しましょう」

澤田さんは椅子から下りると、無惨な姿に変わり果てた[社内恋愛禁止]とプリントされた紙を、ごみ箱へと落とし入れた。


私はデスクトップへ向かい、[整理整頓]の貼り紙を作り、それを新たに掲げた。

3年振りに戻された[整理整頓]の文字は、微妙に物足りなく感じるのは文字数が負けているからなのか、壁に出来たシミが残っているからか。

それとも、3年間束縛されていた[社内恋愛禁止]と、それぞれの縛られた想いの、呪縛がついに解き放たれたからか。


呆気なくごみ箱に捨てられるとは、想像すらしていなかった。


澤田さんがどんな想いで、社内恋愛禁止なんて文句を掲げ、どんな想いで毎日見上げていたのか。

きっと、私と同じような感情だと、頭の中で勝手に思い描いた。
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