切なさに似て…
「あの3万円って…、使っちゃっていいのかな…?」

「え?どの3万?」

声のする方を振り返ると、レナは頭まですっぽり布団を被っていた。


「あのおじさんから先払いで貰った3万だよ。教科書買いたい…」

くぐもった声を出したあと、掛け布団からひょっこり顔を出し、「来週入学式だから」と、付け足した。


「…いいんじゃない?あのオッサン、人助けがしたかったみたいだし。これ、私がお父さんに貰ったお金の余りが入ってるから、レナが使いなよ」

「こんなに?」

「こんなにっていうほど入ってないけど、当面の間は何とかなるでしょ?暗証番号は1507」

テレビと明かりを消し、それで教科書でも買えば?そう言うと、レナは嬉し気に笑った。


「じゃあ、明日買いに行く」

闇に染まった部屋でガサッと布団が擦れる音をさせ、レナはほんの少し声のトーンを上げる。


「あと、ローファーも買わなきゃ…。あとね、鞄も」

頭の中で欲しい物を浮かべているみたいに、次々と高校生活には欠かせない必需品を、言葉にし並べていった。

入学式を控え、浮き立つ思いに胸を膨らますレナは、よっぽど嬉しいらしい。


「お姉ちゃんの同級生みたいな、友達欲しいな…」

レナがそう願い事を唱えるみたいに言うから、笑い飛ばして「出来るといいね」と、言葉を繋げた。
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