切なさに似て…
車の傍まで駆け寄ると、満面の笑顔を向けたさっちゃんと、その隣にはいかにも優しそうな顔立ちの男の人、さっちゃんの彼氏はタバコの煙を窓の外へと吹き飛ばす。


「柚ちゃん久しぶり。新居、この先なんだよ~。遊びにおいでよ。これウチの彼氏だよ。忙しそうだね?電話したのに、あっ!そうだこれからご飯食べに行かない!?彼氏の友達紹介するよ」

ぺらぺらとこちらの都合お構いなしで、よく喋るさっちゃんを遮る。


「いや、今急いでて。列車間に合わないから。ごめんねっ」

そう適当にあしらい、私はまた走り出す。


「柚ちゃーんっ!乗ってけばー!?」

口を両手で覆い、先程より大きな声を張り上げたさっちゃんと平行して並ぶ。


「え?いいよ、帰るんでしょ?」

方手をヒラヒラさせ断ると、車から降りて来たさっちゃんに腕を取られ、強引にも後ろの席へと押しやられた。

「狭いけど我慢してね。ウチの彼氏ったら片付けないからさ。だらしないったらありゃしないよっ。駅でいいの?ほら、柚ちゃん困ってるんだから。早く車出しなさいよっ」

もの凄い剣幕でまくし立てられたさっちゃんの彼氏は、ちょっぴり迷惑そうな顔をしながらもハンドルを握り締めた。私はその背中に何度か「本当に、すみません」と、謝罪を述べた。
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