切なさに似て…
一瞬ドキッとしたものの、遠目でも明らかに背格好が違う。

コツコツ足音が近づいて、首を傾げながらマンションの中へと吸い込まれていく。


こんなことをもう数回続き、人通りも落ち着いた時。無情にも空からはポツっと雫が落ちてきて、更に私に不安がのしかかる。


「雨…?傘なんてないよ…」

時刻表のチェックは抜かりなくしておいて、突然の雨に天気予報のチェックはしていなかったことに気づき、どこか抜けている自分に呆れてしまう。


立ち疲れた足は自然と小さなスペースの花壇へと向き、その縁にお尻を乗せ休ませる。


離れたところで女の人と聞き覚えのある男の人の声がするまでは、雨に濡れようがどんなに遅くなろうが、会いたいって気持ちだけが私をこの場に留まらせていた。


雨足が強くなる中。雨音に混じって聞こえてくる揚々とした話し声。


「…傘なんてよく持ってたね?」

「折りたたみは常備してるよ」

その声にバッと顔を上げると、黒っぽいこぢんまりとした傘に肩を並べて歩いてくる男女の姿を捉えた。


だけど、私の顔はまた濡れた地面へと引き戻されて、湿っぽくなった髪の毛が垂れる。

水を弾くような、アスファルトを擦る細粒のジャリッという足音を混ぜながら、段々と近づく傘に覆われた人影に。


どうか気づかれませんように。

心の中で唱える私は、やっぱり来なければよかったと思うしかなかった。
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