切なさに似て…
きっとこのまま帰ったら、治や麻矢に怒られるんだろうな。とか。

もう、彼女できたんだ…。信浩らしいな。

こんな時間でもホテルって入れてくれるのだろうか。


今、信浩の前に出て行ったらどうなるのか。なんて考え巡らせ、重々しく腰を上げ立ち上がる。


最後に後ろ姿だけでも目に焼き付けておこうと、振り向くと、同じタイミングで振り返った信浩と、なんの因果か視線が重なった。


「柚果…?やっぱ柚果じゃねーかよ…。まさかいるわけねーしって、半信半疑で…」

そんなようなことを口にしながら歩み寄ってくる信浩に、背を見せて慌ててバッグの持ち手に指をかける。


「柚果っ!」

「ね、誰?」

「ん…、友達」

不審そうに声をあげた女の人に、そう答えた信浩の声を背中に受けた。


気づかれてしまったことに、そして“友達”と答えたことに、なんとも言いようがない淋しさが押し寄せる。
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