切なさに似て…
無言で促されるがまま、僅かに距離を置いてソファーへと腰をかける。

カラカラに乾いた喉に、一口含んだカシスオレンジは、いつも作ってくれたものと同じ味がして。

信浩がいなくなって、自分で作ったカシスオレンジとは別物で、これは美味しくて目頭がほんのり熱を帯びる。


「おいし…」

そう堪らず呟いた。

両手に包んだグラスの中の氷が溶け出してきた時、忘れそうになった本来の目的を思い出す。


「…って、そうじゃなくて」

隣を向くと、口に缶口を押し当てビールをグイグイ流し込んでいる信浩が私の顔を見下ろした。


口から離した缶を置いた際、空になったのかテーブルの上でカランと軽い音を響かせる。


「さっきの話…。治には教えたんなら、私にも教えてくれればよかったのに」

「あー…」

私から切り出されてか、信浩は気まずそうに口ごもり目を背けた。


「転勤の話だって、一言言ってくれたっていいのに…。ごめんとか、ありがとうとか…、そんなことじゃなくて…」

…きちんと話が聞きたかった。

そう言いたいのに、最後まで言葉が続かない。
< 349 / 388 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop