切なさに似て…
私が自分の席に着いた時、長い髪を靡かせタイミング良く現れた彼女によって、事務所内にただならぬ緊張が走り抜けた。

「おはよーございまーす」

「白崎さん、遅いわよ。何時だと思っているの?」

「えっとー、7時52分ですねー」

…あぁ。そういうことじゃないのに。

「誰が現在時刻を言えって言ったの!?ふざけるのも大概にして頂戴」

私の頭越しでお局様の説教が始まった。

…あぁっ。始まった…。こっからが長いんだよね。


「ふざけてませんっ。聞かれたから答えただけでーす」

去年春に入社した、私より2つ年下の白崎さんは真面目な顔をして答える。


真剣な表情なのにそうは見えないのは、その言葉を伸ばす口調のせい。

またこれがお局様のお怒りを買っているという事実、本人は全く気づいていない。



「そのスカーフは何なの!それにキラキラしたアクセサリーも!髪の毛もだらし無いわよ!!毎日、毎日直さないってどういうことなの!?」

「こ、れ、は、ファッションですよー」

「仕事しに来ているのにファッションも何もないわよ」

2人の間に目では決して見えない火花が散っていて、お局様の頭には角が生えているかのよう。
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