切なさに似て…
毎週土曜日になると訪れる一弥の部屋。

四隅に備え付けられた控えめな間接照明が、やんわりと疲れた心を落ち着かせてくれる。


シークレットな関係はかれこれ1年が経とうとしていた。


この部屋に一歩でも足を踏み入れた瞬間。

『待ってたよ』そう言って、スカルプの香りを漂わせ、髪に指を絡めながら頭を押さえ付け私を抱きしめる。



恋人同士。そう聞かれれば私は迷わず“ノー”と答える。

ただ[社内恋愛禁止]なんてくだらない理由だからじゃない。


私が愛してるのは…。

その口調と、その仕草と、その香り。ただそれだけ。

顔や体に性格なんてものは二の次、三の次。

だからって誰でもいいわけじゃない。

いや…、誰でもいいのかも知れない。


この口調に仕草に香りが備わっているなら…。



『フラフラしてるお姉ちゃんみたいに』

好きでフラフラしているわけじゃない。

脳裏を過ぎるレナの言葉に、そう言い聞かせながら。


本質はありとあらゆる物を、利用しているだけなのかもしれない…。
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