切なさに似て…
入社して3ヶ月が経てば、仕事にも人間関係にも随分と慣れてきた頃。


『今晩、飯でもどう?』

目を細め、少年のように微笑んだチーフに、私は臆することなく頷いた。


何処か小洒落たお店にでも連れてってくれるんだろうと。その期待を裏切ることなく、お洒落な店構えの洋食屋さんの駐車場に車を停める。

慣れた手つきでドアを引き、案内された席の椅子に手をかけ、先に私を座らせた。


キョロキョロと泳ぎっぱなしの視線。

店内を照らす、落ち着き払った間接照明。

黒い大理石みたいなテーブルにかけられた、純白のクロス。

それだけで満足だというのに、上質な皮張りのメニューはより一層、高級感を煽る。


運ばれた華やかな器、綺麗に盛られたビーフシチューを前に。


ファミレスにしか行かない私の胸は、今にもはち切れるのではないかと言わんばかりに、ドキドキしていて。


きっと、この時にはすでに堕ちていたんだと思う。


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