切なさに似て…
「そーいや、お菓子買ってきてあるぞ」

寝息を立てていたはずの信浩が声を発した。


その声にびっくりした私の、動揺した声が漏れる。

「えっ…、あ…、起きてたの!?寝たのかと思った…」

「こんな時間に寝れるか?」

何故か疑問形で、取りに来いよ。と、ガサガサとビニール袋の音を立てた。


この時間に眠れるとは到底思えないけど、起きてたならドライヤーで素早く乾かせられたのに。って言えば、信浩は遠慮するなとか、気遣うなとか言うから、その言葉は胸の内にしまっておいた。


ストーブの炎がちらちらと照らす明かりで、辛うじて信浩の姿が浮き上がり所在が確認できる。

金曜の夜、信浩が踏んでしまったお菓子と同じもので、ストロベリーチョコ味のウエハースが2個あって、どうして2個あるのか尋ねると。


「2個ないと、…喧嘩するだろ?」

「半分こするよ…」

「柚果が?お前は、私の方が小さい!とか言うだろ?」

「何それ、バカにしてんの?そんなこと言わないってば!」

「ははっ。1個ずつ食えよ、贅沢気分ってやつ?」

「…うん」


笑い声は聞こえるけれど薄暗がりの中、表情が見えない言葉のやり取りに実は緊張している。

信浩は顔色だけじゃなくて、声色でも私の中の闇を嗅ぎ当ててしまう、そんなヤツだから。
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