平安物語=短編集=【完】
「…の君、春雨の君…。」
どれくらい眠ってしまったのでしょうか、中将様が揺り起こすので目覚めました。
被っていた筈の掛け物は、いつの間にか顔より下に下がっています。
「起こしてしまってすみません。
でもこういう事は、きちんとした方が良いと思いまして。」
そう仰って、華奢な篭に入ったお餅を差し出されました。
「結婚の祝に食べる、三日の餅(ミカノモチイ)ですよ。
さっき、女房が持って来てくれました。
さあどうぞ、喉に詰まらせないでくださいね。」
おずおずと手にとって中将様を見ると、にっこりと微笑んで一口召し上がりました。
それを見て私も口に含むと、とりわけ美味しいという訳ではないのだけれど、きっと一生忘れないだろうと思われるような味がしました。