平安物語=短編集=【完】
堂々めぐりの物思いに耽っていると、牛車が屋敷を出て行く音がしました。
「少将様は、どちらにおでかけなの?」
と女房が話しています。
「右大臣様のお屋敷で、遅咲きの桜の宴があるのだそうよ。」
「まあ…それじゃあ勿論、中将様は今夜もいらっしゃらないのね…。」
その話を聞いて、ひとまず私の胸は安堵感でいっぱいになりました。
少将は出掛けて不在、しかも昨夜と今夜の中将様は浮気ではない。
それと同時に、少将の車に駆け寄って、私も右大臣邸へ行ってしまいたい衝動に駆られました。
中将様に会ってこの想いを伝え、明日の夜他の女性のもとへ行かないよう泣きついてしまいたい…
もちろん現実的なことではありませんし、もし一世一代の決意をして実行に移したとしたら、中将様は呆れて愛想も何も尽き果ててしまうことでしょう。