平安物語=短編集=【完】
「なにを言う。
二の宮は東宮であるのだし、一の宮よりたくましくなる必要があるではないか。
そなたは二の宮を甘やかしすぎるのだ。」
「ほらほら、帝はいつだってそうやって一の宮の肩ばかり持たれる。
だから私は二の宮を守るのではありませんか!
一の宮は更衣腹ですよ!」
「ああ、素晴らしい更衣だった!」
「私よりその更衣の肩を持つなんて!
臣下の出の、更衣ごときを!」
更衣を貶されカッと頭に血がのぼりそうになった時、尚仁が大声で泣き出して私に体当たりしてきた。
「ちちうえ、ははうえを怒らないで!
ぼく、たくましくなるから、けんかしないでください!」
そのいじらしさに胸がいっぱいになって、尚仁を強く抱きしめた。
「違う、違う、そなたが悪いのではないよ。
大きな声を出してすまなかった。
もう、母上と仲直りするからな、泣くな泣くな。」
すると御息所が、ここぞとばかりに
「袴着で宮のそばに居りますこと、お許しください。」
と繰り返したので、泣いている尚仁の手前、許さないとは言えず、
「…いいだろう。」
と約束した。