平安物語=短編集=【完】
その夜、私は迷わず藤壺を召した。
御息所は、不機嫌な顔をして尚仁の手を引き帰って行った。
藤壺の待つ寝所へ行くと、ものにもたれるようにして待っていた。
宴で少し酒を飲んだのか、少し上気した俯き気味のその表情は、絵にしてとどめておきたいくらいのものだった。
私に気づいて目だけで会釈し、ゆっくりといずまいを正す様の優雅さ。
何年見ても見飽きない美しさであることよ、と感心した。
しかし私の期待に反して、藤壺は一切取り乱してなどいなかった。
敢えて宴の話題などを出すも、淡々と世間話のように答えるだけ。
あまりの無関心さに、果たしてこの美しい人は、一日のうちどのくらい私のことを考えるだろうかと、一人で苦笑いした。